相談の場面
2007年の冬、長年かまぼこ原料の受託加工でお付き合いのあった食品メーカーの担当者から、一本の電話が入った。
「今扱ってもらっている工場が閉鎖することになって……。カネセさんで蟹の処理、引き受けてもらえませんか」
当時のカネセ及川水産は、タラをはじめとする白身魚のすり身加工を専門にしてきた会社だった。蟹の殻を割り、身を取り出す処理は、扱う設備も、必要な技術も、まったくの別物である。「うちでは無理かもしれません」というのが、現場の最初の実感だった。
向き合い方
それでも、担当者の話をまず最後まで聞くことにした。急な工場閉鎖で困っているのは相手も同じで、代わりが見つからなければ商品自体が立ち行かなくなる。「できません」と即答するのではなく、「何が課題になりそうか、一緒に整理させてください」と伝え、必要な処理量・納期・品質基準を洗い出すところから始めた。
「やったことがない」は、断る理由にはならない。まず受け止め、何が本当のハードルなのかを見極める——それが、のちに「相談力」と呼ぶようになる姿勢の原点だった。
検討プロセス
洗い出した課題は主に3つ。専用設備の投資、殻処理に伴う廃棄物処理の動線、そして未経験の作業を任せられる人員体制。
これらをコストとスケジュールに落とし込み、既存のすり身ラインの空き時間を使えないか、初期投資を抑えた簡易設備でまず小ロットから試せないかを検討した。取引先とも「まずは試作品で品質を確認してから量産に移る」という段階的な進め方で合意し、いきなり全量を引き受けるリスクを避けた。
研究・プロセス化
試作は簡単ではなかった。殻を割る力加減ひとつで身が潰れ、歩留まりが安定しない。地元の水産加工に詳しい業者に相談しながら道具を調整し、作業者ごとにばらついていた処理手順を1つの手順書にまとめ直した。
試作を重ねるうちに歩留まりが安定し始め、量産化までに要した期間は約6週間。すり身加工で培っていた「魚を丁寧に扱う」感覚が、蟹の身を潰さずに取り出す作業にも応用できることが分かったのは、現場にとって大きな発見だった。
継続・蓄積
この蟹処理の経験は、一度きりの対応では終わらなかった。手順書と設備はそのまま社内のノウハウとして蓄積され、その後別の取引先から持ち込まれた甲殻類の相談にも、この時の知見を土台に応じられるようになった。
「タラしかできない会社」から「相談されれば、やり方を考える会社」へ。この一件が、カネセ及川水産の対応領域を静かに広げる最初の一歩になった。
同じような「やったことない」を、いま抱えていませんか。